
オフィスの敷金とは? 賃貸借契約の仕組みとコスト削減のポイント
オフィス移転や新規開設を検討する際、初期費用として大きなウェイトを占めるのが「敷金」です。敷金は、単に賃貸借契約時の担保として預けるだけでなく、賃貸借契約の仕組み、特に退去時の「原状回復」の考え方と密接に関わっています。
この仕組みを正しく理解できていないと、想定外の追加費用が発生したり、返還交渉で不利になったりするリスクがあります。
この記事では、オフィスの敷金に関する基礎知識から、相場、支払いの流れ、そして返還されないケースや、敷金コストを削減するためのポイントについて解説します。
目次[非表示]
オフィス賃貸における敷金の基本
敷金とは、賃貸借契約において、賃借人(借り主)が賃貸人(貸し主)に対して、賃借人の債務(家賃の未払いや原状回復費用など)を担保するために交付する費用を指します。敷金については、『民法』第622条の2に以下で規定されており、オフィス賃貸借契約においても、この基本的な性質は変わりません。
▼民法 第622条の2
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
引用元:e-Gov法令検索『民法』
出典:e-Gov法令検索『民法』
オフィス敷金の相場と地域差
オフィスの敷金相場は、賃料の6〜12ヶ月分が目安とされています。ただし、次のような条件で大きく変動します。
▼変動する条件例
条件 | 注意点 |
立地(都心・地方) | 都心の主要ビジネスエリアでは敷金が高い傾向(10〜12ヶ月分以上) |
ビルグレード(築年数・設備・管理体制) | ハイグレードビルでは敷金が高く設定される場合がある |
賃貸面積(小規模・大規模) | 中大規模オフィスは長期入居を期待して敷金が比較的下がるケースもある |
景気・需給バランス | 景気後退期は敷金が引き下げられ、法人移転が活発な時期は高くなりやすい |
敷金が返還される条件と注意点
敷金が返還される基本条件は次の3点です。
賃貸借契約が終了していること
物件を明け渡していること(鍵の返却・引渡し完了)
未払い債務がないこと(賃料、違約金、原状回復費用など)
ただし、オフィス賃貸は居住用とは異なり、次の理由から敷金が全額戻らないケースが一般的です。
原状回復の範囲が広い:パーテーション撤去、床材張り替え、天井復旧、電気設備の撤去など
工事費用が高額になりやすい:オフィスは専用内装が多く、復旧工事が大掛かりになりやすい
解約予告期間の家賃も債務に含まれる場合がある
そのため、退去時に返還される敷金額を正確に見積もりするには、契約書の原状回復条項を詳細に確認することが必須です。
敷金が発生するタイミングと支払いの流れ
オフィスの賃貸借契約を進めるにあたり、敷金は契約開始前に準備すべき「初期費用」の一つとして扱われます。敷金が発生するタイミングは、基本的に賃貸借契約を締結するときで、そのほかの初期費用と合わせて一括で支払いを行うことが一般的な流れです。
契約時に必要な初期費用
主要な初期費用としては、以下の項目が挙げられます。
礼金(保証金)
前家賃・共益費
仲介手数料
火災保険料(または各種保険料)
鍵交換費用
敷金返還の手続きと期間
敷金の返還手続きは、賃貸借契約が終了し、賃借人がオフィス物件を賃貸人に明け渡した後から開始されます。具体的な流れは以下のとおりです。
▼具体的な流れ
原状回復工事の実施:契約書に基づき、賃借人の負担で原状回復工事を実施
明け渡し(退去):賃借人が契約に従いオフィスから退去し、鍵を賃貸人に返却
立会い検査:原状回復工事完了後、賃貸人側と賃借人側が立会い、建物の損耗状況や原状回復の完了度合いを確認
費用の確定と相殺:賃貸人は、賃借人の債務を計算し、預かり金と相殺する
残額の返還:相殺後の残額があれば、賃貸人は賃借人指定の銀行口座へ返金
返還期間については、明け渡しから1〜3ヶ月程度が一般的です。
敷金が返還されないケースと原状回復
敷金は「担保金」であるため、賃借人の債務を相殺するために使用された場合、その分は返還されません。特にオフィス賃貸においては、高額な「原状回復費用」が敷金から差し引かれます。
原状回復費用として差し引かれるケース
原状回復費用として敷金から差し引かれる具体的なケースは、主に以下の3点に分類されます。
通常の損耗・経年変化を超える損傷の修繕費用
賃借人が行った内装・設備変更の撤去費用
特約に基づくスケルトン化の費用
これらの費用が敷金を上回った場合、賃借人は追加で費用を支払う義務が生じます。
退去時の清掃・修繕の判断基準
退去時の清掃・修繕の判断基準は、「誰の責任で、どれくらいの損傷が生じたか」という点に集約されます。
民法および判例に基づき、賃借人が通常の使用によって生じた損耗や経年変化の修繕費用は、賃貸人の負担とされています。しかし、オフィスの賃貸借契約においては、この原則が特約によって変更されているケースが多いため、契約書の文言が重要な判断基準となります。
返還交渉を行う際の注意点
敷金返還額について賃貸人側と意見が食い違った場合、賃借人は積極的に交渉を行うことが重要です。
▼注意点
賃貸借契約書の「原状回復に関する条項」と「敷金の償却に関する特約」を確認する
入居時/退去時の状況記録、見積書の確認など、客観的な証拠の収集を行う
民法の原則や、国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』などの公的な情報を参考に、賃貸人の請求が法律的に正当な根拠を持つかを確認する
交渉は感情的にならず、客観的な証拠と契約書・法律の根拠に基づいて、理路整然と行うことが重要です。
出典:国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』
敷金コストを削減するためのポイント
オフィスの初期費用において重荷である敷金コストを削減するためには、物件選定の段階から戦略的なアプローチが必要です。
敷金ゼロ・保証会社制度の活用
敷金コストを削減する直接的な方法として、「敷金ゼロ物件」または「保証会社制度の活用」が挙げられます。
敷金ゼロ物件
賃貸市場の競争激化や、テナント企業の初期負担軽減ニーズの高まりから、敷金(または保証金)をゼロに設定しているオフィス物件が増加しています。
ただし、敷金ゼロの代わりに賃料が割高に設定されている、あるいは退去時の原状回復費用を実費で全額負担する特約が付帯しているケースもあるため、トータルコストを慎重に比較検討する必要があります。
保証会社制度の活用
敷金の代わりに、賃貸保証会社を利用するケースです。賃借人は保証会社に保証料(賃料の数ヶ月分など)を支払うことで、賃借人が賃料を滞納した場合や原状回復費用を支払えない場合に、保証会社がその債務を賃貸人に代わって履行します。
契約時の条件交渉
賃貸借契約を締結する際、特に優良なテナント(企業の信用力、長期入居の意向など)であると認められれば、敷金に関する条件を交渉できる可能性があります。
敷金・保証金の減額交渉
賃料の〇ヶ月分という相場はあくまで目安であり、賃貸市場の状況や物件の空室率によっては、賃料の1〜2ヶ月分程度の減額交渉に応じてもらえる可能性があります。
償却率・償却期間の交渉
契約書に記載されている敷金の償却について、「償却率を下げる」または「一定期間内に退去した場合のみ償却する」といった柔軟な条件変更を求める交渉が有効です。
原状回復の範囲の明確化
退去時の費用負担のトラブルを避けるため、契約書に「通常損耗・経年変化の修繕費用は賃貸人負担とする」など、原状回復義務の範囲を明確かつ具体的に記載するよう交渉します。
オフィスの賃貸管理はアウトソースを利用して効率化
オフィスの賃貸借契約は、敷金の管理、契約書の条件確認、更新手続き、さらには退去時の原状回復交渉など、専門的な知識と煩雑な事務作業を伴います。
これらの賃貸管理業務を社内の管理部門だけで担うのは、大きな負担となり、本業への集中を阻害する要因となり得ます。ここで有効な手段となるのが、賃貸管理業務の「アウトソース(外部委託)」です。
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まとめ
この記事では、オフィスの敷金について以下の内容を解説しました。
オフィス賃貸における敷金の基本
敷金が発生するタイミングと支払いの流れ
敷金が返還されないケースと原状回復
敷金コストを削減するためのポイント
オフィスの賃貸管理はアウトソースを利用して効率化
オフィスの敷金は、賃貸借契約における債務を担保するための重要な費用であり、その相場は賃料の6~12ヶ月分程度と高額になる傾向があります。
敷金に関するトラブルや想定外の支出を避けるためには、賃貸借契約時に「敷金の償却」や「原状回復義務の範囲」を詳細に確認することが不可欠です。
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