社宅の賃貸借契約をオンラインで行うには? 契約の流れや注意点とは
デジタル社会の形成を目指すための取り組みが進められるなか、宅地建物取引業法に関する法整備も行われ、賃貸借契約を締結する際の書面の交付や重要事項説明をオンライン上で行うことが可能になりました。
企業が借上社宅を運用する場合においても、不動産会社とオンラインで賃貸借契約を結んでスムーズに手続きを進められることが期待されています。
企業の社宅担当者のなかには、「オンラインでどのように賃貸借契約の手続きを行うのか」「オンラインでの契約に際して注意点はあるのか」などと疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、オンラインで賃貸借契約を行うメリットや手続きの流れ、注意点について解説します。
出典:国土交通省『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。~宅地建物取引業法施行規則の一部改正等を行いました~』『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』
目次[非表示]
オンラインでの賃貸借契約に関する法律
2021年5月19日に公布された『デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律』による法整備の一環として、宅地建物取引業法の改正が行われました。これにより翌年の2022年5月18日に、オンラインでの賃貸借契約に関する新たな法律が施行されました。
賃貸借契約に関する主な改正規定は、以下のとおりです。
▼賃貸借契約に関する主な改定規定(2022年5月18日施行)※2023年9月1日時点
- 重要事項説明書(第35条書面)の電磁的方法による交付
- 契約締結時書面(第37条書面)の電磁的方法による交付
- 宅地建物取引士の押印廃止
不動産の賃貸借契約を行う際には、取引に関する条件・情報などの重要な事項を定めた重要事項説明書(第35条書面)を交付して、宅地建物取引主任者による当事者への説明を行うことが義務づけられています。
また、賃貸借契約の際には、契約内容を記載した契約締結時書面(第37条書面)(以下、賃貸借契約書)を契約の当事者に交付することが義務づけられています。
▼宅地建物取引業法第35条
(重要事項の説明等)
第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『宅地建物取引業法』
▼宅地建物取引業法第37条
(書面の交付)
第三十七条 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
一 当事者の氏名(法人にあつては、その名称)及び住所
二 当該宅地の所在、地番その他当該宅地を特定するために必要な表示又は当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示
二の二 当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項
三 代金又は交換差金の額並びにその支払の時期及び方法
四 宅地又は建物の引渡しの時期
五 移転登記の申請の時期
六 代金及び交換差金以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的
七 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
八 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容
九 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
十 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容
十一 当該宅地若しくは建物が種類若しくは品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置についての定めがあるときは、その内容
十二 当該宅地又は建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めがあるときは、その内容
引用元:e-Gov法令検索『宅地建物取引業法』
法改正前までは、重要事項説明書や賃貸借契約書は紙媒体での交付が義務づけられていたほか、宅地建物取引士による押印も必要でした。
今回の法改正によって電磁的方法で作成した書面(以下、電子書面)での交付が認められたことで、メールやWebからのダウンロード形式で不動産会社から書面を受け取れるようになりました。また、宅地建物取引士による書面への押印は不要になりました。
▼宅地建物取引業法の改正内容
書面の交付(第35条・第37条) |
宅地建物取引主任者による押印 |
|
改正前 |
紙媒体での交付が必須 |
記名押印が必須 |
改正後 |
電磁的方法で交付が可能 |
記名のみで足りる |
なお、賃貸借契約の際には宅地建物取引士による重要事項説明を実施することが義務づけられていますが、対面だけでなくパソコンやタブレットなどのITツールを利用してオンライン上で行うことも可能です。これを“IT重説”といい、賃貸借契約の場合は2017年10月1日から実施が認められています。
出典:国土交通省『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。~宅地建物取引業法施行規則の一部改正等を行いました~』『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』/e-Gov法令検索『宅地建物取引業法』
社宅の賃貸借契約をオンラインで行うメリット
オンラインで賃貸借契約を締結すると、以下のメリットがあります。
▼メリット
- 契約に関する業務を効率化できる
- 柔軟に日程調整が可能になる
賃貸借契約に関する書面をメールまたはWeb上から受け取れるため、不動産会社への訪問や郵送での受け渡しが不要になります。不動産会社が遠隔地にあり、訪問に時間・労力がかかる場合でもオンラインで社宅の契約手続きを進められるため、社宅担当者の業務を効率化できます。
また、IT重説を依頼することで、不動産会社に足を運ばなくても社宅担当者がオフィスや自宅にいながら重要事項説明を受けられるようになります。複数の入居予定者がいる場合でも、IT重説を受ける日程調整がしやすくなるため、スムーズな契約につながると考えられます。
オンラインで社宅の賃貸借契約を締結する流れ
不動産会社のなかには、オンラインでの物件相談や内見に対応している会社があります。賃貸借契約に関する手続きだけでなく、物件相談や内見などもオンライン上で実施すると、すべての手続きを遠隔地にいながら完結することが可能です。
ここからは、社宅の賃貸借契約をオンラインで行う流れについて解説します。
①物件の相談・内見
不動産会社の問い合わせフォームやメールなどで社宅として借り上げる物件の確認を行い、オンラインでの内見を申し込みます。
社宅にする物件が決まっていない場合は、希望する条件を不動産会社に伝えて条件に合う物件の情報を紹介してもらいます。
オンラインでの内見は、ビデオ通話機能のある端末やITツールを利用して、現地にいる不動産会社のスタッフが中継する仕組みとなります。事前に確認したいポイントをまとめて不動産会社に伝えておくと、オンラインでの内見をスムーズに行うことが可能です。
なお、オンラインの内見についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
②入居申し込み・入居審査
内見を終えて契約に進む場合には、物件の入居申し込みを行います。
不動産会社によって対応は異なりますが、入居申し込みについても電子書面で行うことができます。入居申し込みのあとは入居審査が行われるため、必要書類を揃えて不動産会社へ提出する必要があります。
なお、入居審査に必要な書類についてはこちらの記事をご確認ください。
③重要事項説明書(電子書面)の受領・IT重説の実施
入居審査を通過したら、賃貸借契約の手続きへと進みます。重要事項説明書について電子書面での交付を受けたい旨を不動産会社に伝えます。電子書面の受領からIT重説の実施までの手順は以下のとおりです。
▼電子書面の受領からIT重説の実施までの手順
- メールやWebでのダウンロード形式などで不動産会社から電子書面を受領して、内容を確認する
- 電子書面の受領後、IT重説に関する承諾を行う
- IT重説の承諾後、宅地建物取引士と社宅担当者の双方向で映像と音声をやり取りできるツールを用いてIT重説を受ける
IT重説に関する承諾は、紙媒体の書面で不動産会社へ郵送するか、電子メールやWeb上で行う方法があります。
▼IT重説の流れ
画像引用元:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』
出典:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』
④賃貸借契約書(電子書面)の受領・締結
重要事項説明が終わったら、賃貸借契約書を受領して契約を締結します。
社宅担当者は、電子書面で交付を受けたい旨を不動産会社に伝えて、メールやWebでのダウンロード形式などで受領します。電子書面での受領については、紙媒体の書面または電子メール、Web上で承諾を行う必要があります。
▼賃貸借契約の流れ
画像引用元:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』
出典:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』
オンラインで賃貸借契約を締結する際の注意点
社宅の賃貸借契約をオンライン上で締結する際には、以下の点に注意が必要です。
▼注意点
- 電子書面が改変されていないことを確認する
- ビデオ通話の環境を整える必要がある
重要事項説明書や賃貸借契約書を電子書面で受領する際は、内容が変更されていないことを確認する必要があります。電子署名やタイムスタンプで改変されていないことが証明されているか、また証明の有効期間を過ぎていないかを確認します。
IT重説を実施する際には、一定の要件を満たす機器やツールを利用することが定められています。インターネットの通信回線に加えて、画面の鮮明さや音声の質などにも配慮が必要です。
出典:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』
まとめ
この記事では、社宅の賃貸借契約をオンラインで行う方法について以下の内容を解説しました。
- オンラインでの賃貸借契約に関する法律
- 社宅の賃貸借契約をオンラインで行うメリット
- オンラインで社宅の賃貸借契約を締結する流れ
- オンラインで賃貸借契約を締結する際の注意点
社宅の賃貸借契約をオンラインで締結すると、社宅担当者による契約業務の効率化を図れるほか、IT重説の日程調整がしやすくなりスムーズに契約を進められるメリットがあります。
物件相談や内見についてもオンラインで対応してくれる不動産会社を選ぶと、現地に足を運ばずにすべての手続きを遠隔地にいながら完結することが可能です。
そして、契約上のトラブルを防ぐために、電子書面が改変されていないか確認するとともに、IT重説の実施環境を整えておくことが重要です。
『リロケーション・ジャパン』の社宅管理サービスでは、借上社宅の運用を転貸方式によるフルアウトソーシングで対応いたします。物件探しや不動産会社との契約手続きはすべて弊社で対応するため、社宅担当者の業務負担を削減できます。
サービスの詳しい内容は、こちらからお問い合わせください。