社宅使用料を給与天引きにするメリットと注意点
従業員の住居費を支援する制度は、大きく“住宅手当・家賃補助の支給(現金給与)”と“給与天引きによる社宅貸与(現物給与)”の2種類に分けられます。
どちらも福利厚生制度に関する取組みですが、それぞれの違いについて明確に把握している担当者の方は少ないのではないでしょうか。
社宅制度を導入する際は、企業側と従業員側の双方にメリットがある取組みを選択することが望ましいです。
この記事では、住宅手当支給(現金支給)と給与天引きによる社宅貸与(現物支給)の違い、給与天引きのメリットと実施時の注意点を解説します。
目次[非表示]
- 1.住宅手当と給与天引きの違い
- 1.1.①課税発生の有無
- 1.1.1.住宅手当
- 1.1.2.給与天引きによる社宅貸与
- 1.2.②物件選択の可否
- 1.2.1.住宅手当の支給
- 1.2.2.給与天引きによる社宅貸与
- 2.社宅使用料を給与天引きにするメリット
- 3.給与天引きにする際の注意点
- 4.まとめ
住宅手当と給与天引きの違い
企業が従業員に対して住居費の援助を行う住宅手当の支給と、給与から社宅の自己負担分を天引きする給与天引きでは、それぞれに異なる特徴があります。ここでは、主な2つの違いを紹介します。
①課税発生の有無
住宅手当と社宅使用料の給与天引きによる社宅貸与の大きな違いは、課税対象になるか否かという点です。
▼課税発生の有無の違い
住宅手当 |
給与天引きによる社宅貸与 |
課税対象 |
一定の条件を満たすことで非課税 |
住宅手当
所得税法上、従業員の経済的利益とみなされるものは、現金給与・現物給与を問わず課税対象となるのが原則です。そのため、従業員の給与となる住宅手当の支給は、課税対象となります。従業員には所得税がかかり、企業は源泉徴収を収める必要があります。
従業員にとっては給与が増えたように感じられる住宅手当ですが、実際は税金負担の増加にもつながります。
給与天引きによる社宅貸与
一定の方法により計算した社宅費や寮費などの社宅使用料(賃貸料相当額)を従業員から給与天引きすることで、実際の家賃と社宅使用料の差額が給与に含まれず非課税となります。
なお、給与天引きによる社宅貸与のほかに、条件つきで非課税となる現物給与には、食事代や制服代などが挙げられます。
出典:国税庁『No.2508 給与所得となるもの』『No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき』
②物件選択の可否
住宅手当と社宅使用料の給与天引きによる社宅貸与では、契約者が物件を選択できるか否かという点にも違いがあります。
▼物件選択の可否の違い
住宅手当 |
自由に物件を選べる |
給与天引きによる社宅貸与 |
物件の条件が社宅規程により定められている |
住宅手当の支給
契約者が従業員本人であるため、原則、自由に物件を選べます。また、支給額の上限や会社からの距離などに条件が指定されている場合は、条件をクリアすることで好きな物件を選べます。
ただし、法人契約となる社宅と比較して入居審査が厳しくなったり、従業員が賃貸借契約におけるリスクを負ったりする可能性があります。
給与天引きによる社宅貸与
契約者が企業であり、条件付きで非課税となる特長もあることから、契約できる物件の条件が社宅規程により定められているのが一般的です。また、自社で購入・建設して運用・管理を行う“社有社宅”の場合、1つの建物に従業員が暮らすため、物件を選ぶことはできません。
一方で、社有社宅には、コミュニティ形成による相互支援や、顔なじみが住んでいるという安心感がある点など、ほかの住宅福利厚生制度にはない魅力もあります。
さらに、住宅1戸単位で賃貸借契約を締結する借上社宅制度を導入すれば、社宅規程で定める条件下において、従業員が好きな物件を選ぶことも可能です。
なお、こちらの記事では社有社宅について解説しています。併せてご覧ください。
社宅使用料を給与天引きにするメリット
社宅使用料を給与天引きにするメリットはさまざまですが、従業員側と企業側で、その内容が異なります。
従業員側のメリット
従業員は、社宅使用料の一部の負担で、安心して居住しやすいメリットがあります。
給与天引きによる社宅貸与(現物給与)は、住宅手当(現金給与)のように目に見えて給料が増えることはありません。しかし、従業員は社宅使用料の一部を負担することで居住できます。
また、給与天引きにより、従業員は余分な支出を抑制しつつ、お金の管理にかかる負担を比較的和らげることが可能となります。社宅使用料の支払い対応や入金催促に追われることがなく、安心して住みやすい点もメリットの一つです。
企業によっては、初期費用や更新料などの費用を負担することで、従業員の負担軽減を図る取組みを実施しているケースもあります。
企業側のメリット
企業は、従業員の住居トラブルの回避、社会保険料の減額というメリットがあります。
社会保険料は企業と個人が半分ずつ負担しますが、その金額は給与とは少し異なる報酬や賃金を基準に計算されます。
『厚生労働大臣が定める現物給与の価額』を用いた一定の方法により、計算した社宅使用料(現物給与価額)を給与天引きして社宅を貸与することで、実際の家賃と社宅使用料の差額は、社会保険料の算定基礎となる報酬や賃金に含まれません。
たとえば、東京都にある事業所の所属社員が社宅を借りて居住用の室が10畳の部屋に住んでいる場合、現物給与価額は以下のように算出できます。
▼現物給与価額の計算例
2,830円(畳1畳当たりの価格)×10畳=28,300円 |
出典:日本年金機構『全国現物給与価額 令和6年4月~ 』
この場合、算出した現物給与価額(28,300円)を標準報酬月額に上乗せする必要があります。しかし、給与天引きしている額が現物給与価額以上であれば、標準報酬月額に上乗せされないため、その分社会保険料の減額につながります。
実際に、住宅手当を給与に追加して支払うと、支給額の増加に伴い、社会保険料も上がります。一方、適切な社宅使用料を給与天引きしている場合、社宅貸与で企業負担として支払う家賃は報酬や賃金の対象ではないため、給与・賞与のみが社会保険料の対象となり、住宅手当と比較して社会保険料の金額負担を抑えられるという仕組みです。
▼社宅制度におけるコスト比較(企業負担)※概算イメージ
項目 |
住宅手当(12ヶ月) |
社宅貸与(12ヶ月) |
住宅手当 |
360,000円 |
なし |
家賃支払(企業負担分) |
なし |
360,000円 |
給与・賞与 |
6,000,000円 |
6,000,000円 |
健康保険 |
314,820円 |
297,000円 |
厚生年金 |
581,940円 |
549,000円 |
雇用保険 |
38,160円 |
36,000円 |
社会保険料の合計 |
934,920円 |
882,000円 |
もう一つのメリットは、給与天引きにより家賃滞納のようなトラブルを回避することで、従業員の住環境を安定的に確保しやすい点です。企業は、囲い込みによる採用力強化や間接的な経済的支援を狙えるといった効果が期待できます。
出典:日本年金機構『全国現物給与価額 令和6年4月~ 』
また、こちらの記事では、福利厚生の一つである社宅の位置づけをはじめ、基本的な社宅の種類と住宅手当との違いについて解説しています。併せてご覧ください。
給与天引きにする際の注意点
『労働基準法』第24条では、使用者は労働に対して約束した賃金の全額を支払わなければならず、賃金からの控除が原則として認められていないと示されています。
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
引用元:e-gov法令検索『労働基準法』第24条
しかし、同条第1項では、例外として、労働組合との書面による協定、仮に労働組合がない場合は従業員の過半数を代表する社員との書面による協定に基づき、“社宅や寮の費用など”を天引き徴収(控除)することが認められています。
出典:e-gov法令検索『労働基準法』第24条
まとめ
この記事では、住宅手当と社宅使用料の給与天引きについて以下の情報を解説しました。
- 住宅手当と給与天引きの違い
- 給与天引きにするメリット
- 給与天引きにする際の注意点
住宅手当と社宅使用料の給与天引きは、同じ住居費を支援する福利厚生の一環でありながら、それぞれの特徴や注意点が大きく異なります。
給与天引きによる社宅貸与では、従業員が実際の家賃に対して一部の社宅使用料を負担することで家に住むことができ、企業は社会保険料の負担を抑えることができるため、双方にメリットがあります。詳細は『社宅制度と住宅手当のメリット・デメリット』をご覧ください。
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